爽やかな祈り

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例によって土曜日恒例の古書展巡り。

今日は串田孫一さんの本を4冊。
『回帰』昭和50年、創文社、(毛筆署名入り、初版)
『牧場の星』昭和51年、白日社、(毛筆署名入り、初版)
『旅の断章』昭和51年、白日社、(毛筆署名入り、初版)
『随想集 氷河の星』昭和52年、白日社、(毛筆署名入り、初版)

串田孫一さんの本は、これまでも何冊かぽつぽつと買い集めていたが、今回はちょっとまとめ買いしてしまった。どれも毛筆による署名があるのも嬉しい。

去年の夏に見つけた『街を歩いた日』という小さな本がある。これにも署名があったので、今日手に入れた本が初めてではないが、お気に入りの作家や作品に著者本人の署名があるのは、なにか特別なものといった魅力がある。

帰りの電車で何ページか読んでいたら、こんなことが書いてあった。

買った古本のあいだから四葉のクローバーが出て来た。既に絶版となっていたその文庫本を見附けられたことがそもそも幸運であったのに、読み進んだ頁のあいだから、更に幸福な未来を予告するように現われた。

クローバーはもう褐色になって、緑色に見える部分はどこにもなかったが、それはそれなりに腊葉としての美しさがあった。この本の最後の頁には、鉛筆で大層つつましく、一九三六年春読了と書いてあったが、仮りにおなじ人がこれを摘んで挿んだとすれば、クローバーの葉は三十数年のあいだそこに眠っていたことになる。

緑の草原を歩きながら、たまたま見付けたこの葉によって、幸福に目ざめたものが、沈む心をもてあましていた青年であろうと、寂しい影のような少女であろうと、今は昔を忘れて静かな日を送っていてくれることを祈る。見知らぬ人の幸福をねがう気持は爽やかな風のようである。

1頁1篇の短い文章だが、これを読んで、手元にあるドイツの古書を思い出した。

ドイツから送られてきた百年以上も前の本。この本にも四葉のクローバーが挿んであった。本には持ち主と思われるサインがあったが、この人が挟んだのだろうか、あるいは他の人が、それはどんな人だったのだろう......さすがに百年以上前の本なので、持ち主が生きているとは考えられないが、前の持ち主は幸福だったに違いない。

今の持ち主が幸福かどうかは何ともいえないが、次にこの本を手にする人には、本の来歴をそのまま伝えてあげたいと思う。

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